三木 清『人生論ノート』 2018年11月 (100分 de 名著)

三木清（1897-1945）の哲学的エッセイ『人生論ノート』。幸福、希望、死など21個のテーマごとに私たちが人生の羅針盤とすべき考えを教えてくれる。私たち平凡な人間にも日常の生活のなかで「哲学」しなさい（より深くものごとを見つめなさい）とうながしているように思える。例えば「希望」。希望を持ち続けること、決してあきらめないということはとても大切なことだが、断念する勇気についてもこう書いている。・・多くのことを諦めたけれど、最後の最後に残ったものについて「これこそ自分が本当に希望していたものだ」と思えるなら、どれほど多くの夢を諦めたとしても、夢を叶えた人生だといえるでしょう。・・これは『赤毛のアン』を視聴したばかりなのでとても胸に沁みる。アンは決まっていた大学進学をあきらめて家族のために故郷に帰って教師になる道を選択した。治安維持法が初めて適用された1930年の3.15共産党検挙。488名が起訴された。三木清はそのうちのひとりである。三木はマルクス主義ではなかったが、共産党へカンパしたのが逮捕理由。以来15年間亡くなるまで、彼の身にはつぎつぎと災難が襲いかかる。1930年治安維持法で検挙。教職を辞任。1936年最初の妻喜美子の死1944年二番目の妻いと子の死1945年６月検挙。疥癬に苦しみ急性腎炎。1945年９月獄中でベッドから転げ落ちて死亡（敗戦１月後）挫折と失意の連続。その中で『人生論ノート』をこつこつと刻んでいく。1941年発行。岩波文庫を創設し人には多くの影響を与えたけれど、自身はきびしい人生を歩まれた。例えば、戦前の日本では自分の幸福を求めることは罪とされた。これはおかしい、間違っていると三木は主張するが軍部に疎まれる。世に流されず真摯に自分の意見を言う小説家、学者、ジャーナリストなどは権力に虐殺される運命にあるのか。頭の中には小林多喜二、三木清、最近のカショギ氏などが浮かぶ。三木のひとり娘、永積洋子が東大文学部初の女性教授として大成されたことに私はホッとする。（解説は岸見一郎氏）